顔を真っ赤にして、拳をふるわせ黙りこむ身長180cmのいかつい大男なんて、文章にしてみたら滑稽で笑えるけれど、現実に今あたしの前にたたずむのはそのテクノカットの大男で、もう少し親切に説明すると立海3年テニス部副部長の真田弦一郎で、そして恥をしのんでいえばあたしの愛する彼氏だ。

          
「前から言っているだろう、そのスカート丈を直せ!」
          
「階段を上がる時は後ろをおさえて上がれ!」
          
「夜9時以降は一人でむやみに出歩くな!」

          
今日も内容はともかく、朗々とした良い声が校舎に響きわたる。最近毎日つづくこの説教に柳は「弦一郎らしいな」と言い、幸村は「お父さんは心配性」と笑い、仁王は「老いらくの恋」とあざけ、丸井は「マジうぜーー」とガムを破裂させた。赤也はなぜか同志を見るような目であたしを見るし、ジャッカルは使えない半笑いをうかべるだけで、柳生にいたってはあたしのスカート丈を定規ではかろうとしたから殴ってやった。

          
今日も、膝上のスカートから伸びた脚を交差させながら、どうやってこの場を切り抜けようかと思案する。それにしてもこの勢いは異常だ。真田の言う服装規定を満たせば、昭和初期の女学生ルックにたどり着かなければいけないわけで、おさげに三つ折りソックスに踝までのスカートなんてコスプレは、今時売っているのを探す方が大変なわけで、そこら辺は真田も重々承知しているものばかりだと思っていた。けれどこの一週間ばかり前から、怒濤の勢いであたしの服装にツッコミが入る。いつまでも終わらない真田の説教にイライラして、伝家の宝刀「真田くんなんて大キライ!!」を取り出そうとした所で、真田が急に口をつぐんで黙り込んだ。
         
ん?と思い、見上げてみればなんだか悔しそうに顔をしかめている。こういう顔をする時は、大抵彼が自分を責めている時だ。突然始まった一人プレイを不可解に思いつつも、しかめた顔が苦しそうで心配になる。あたりを気にしつつ、真田に近づいて、そのたくましい腕に自分の腕をからませる。ビクっとなった真田を見あげてみれば、顔が真っ赤になっている。

「ねえ、何かあったの?最近真田くんちょっとおかしいよ?
ていうか・・」

黙り込む真田に問いかける。

「なんだか・・怖い」

ハッとなって、あたしを見下ろす目が、少し傷ついたような気がした。言いすぎたかと思い、取り繕おうと何か言おうとした所で、急にあたしの体がふわり、と宙に浮いた。全身で真田に抱きしめられ、あたしの視界は真田の首筋と白いシャツで埋まり、身長差で脚が少し地面につかない。

「クラスの連中が・・・」

「?」

「といっても数人の男子だが・・」
          
「うん?」
          
が・・・おまえが・・」
          
「うんうん?」
          
「一番可愛い・・・・・と言っていた」
          
「・・・・・・」
          
「・・・・・・・」
          
「・・・・・・・・」
          
「・・・・・・・・・」



「ハァ?」


真顔で口を開けてポカーンとするあたし。
なんだ?それ?

「じゃさ・・最近いきなり服装や素行に対して厳しくなったのはそのせい?」
          
「・・・ああ」
          
「やたらメールで居場所とか帰り時間とか気にしてきたのもそのせい?」
          
「・・・そうだ」
          
「な、な、な、な・・・何なのよ!それ!?ちょっと可愛いって
言われたからってそんなに神経質にならなくても!ていうかそんな事だったの!?」

「ちょっとではない!!!」


あたしを抱きしめて、真っ赤になりながら真田が叫んだ。


「一番と言ったんだぞ!!!!!」


真田の腕の中で、あたしは再度ポカーンとなった。おそるおそる真田の顔を見上げれば照れているのか、あたしの髪に顔を埋めながら視線を決してあわせない。顔を真っ赤にして、あたしを抱きしめ、黙り込む身長180cmのいかつい大男なんて文章にしてみたら滑稽で笑えるけれど・・・・・けれど、けれど、けれど、

この男、反則的に・・・可愛い。


全身の力がぬけて、へたり込むあたしを抱きしめる自分の力が強すぎたのかと勘違いした真田は「す、すまん」と言って離れようとした。その体を掴んで、自分の顔を胸にこすりつける、シャツごしに真田の心臓の鼓動が早く波打つのが聴こえる。その鼓動を耳元に感じながら、真田の腰をぎゅうううと抱きしめて呟く。

「大好きです」

真田が硬直するのがわかった。

「あ、ああ」

俺もだ、と小さく言いかけた唇を、そのままあたしは背伸びして塞いでやった。真田の愛の告白はあたしの喉奥に消える。

明日は、おさげで三つ折りソックスと踝までのスカートを探す為に、神奈川中を奔走しようかしら。


ちょっと本気でさ。









090501